人はニオイに敏感

ニオイを良くするために

 人間にとって、その時々の精神状態を左右する大きな要素に、ニオイがあります。ニオイは脳裏に焼きついて、ずっと以前にかいだニオイを何年も後になって、思いがけずかぐ時があります。

すると、懐かしい昔のことが思い出されて心を豊かにしてくれたり、逆に嫌な記憶を思い出させたりすることもあります。昔なつかしいニオイは、夢多かりし少年・少女時代の思い出を心のパノラマに映し出してくれます。

良いニオイに囲まれて毎日生活できたら、どんなに素晴らしいかと誰もが思うところです。事実、その夢を実現するための試みは、昔から行なわれてきたのです。

 日本では、仏教の伝来と共に、仏間に供香がたかれるようになり、紫式部などが活躍する平安時代になって普通の部屋で香をたくようになります。さらに時代が進むと、香をたく部屋に衣装をかけておき、そのニオイを衣服に染み込ませる移香が行なわれました。

香水は体臭を隠すものだった

 当時は日常的に入浴するという習慣は無く、しかも十二単などという非活動的な衣装に囲まれていたために、不快な体臭に悩まされていたことでしょう。

 西洋においても事情は同じです。ローマ帝国時代のヨーロッパは、その帝国崩壊と共に風呂に入る習慣もすたれてしまい、それ以降千年間は浴槽というものが無かったのです。

 香水は実はこの時代に生まれ、普及していったのです。香水もまた、おしゃれからではなく、切実な体臭隠しの必需品だったのです。

 また日本の話に戻りますが、古い茶室や神社仏閣などでは、単に香をたくことでニオイをつけるだけではなくて、悪臭をとるための努力もしています。

現在でも、冷蔵庫などのニオイをとるのに活性炭を利用しますが、古い建物の周囲には炭を敷き詰めて、嫌なニオイを追い出しているのです。人間がいかに、ニオイに対して敏感に対応していたかを伺うことができます。